日本成人矯正歯科学会

歯科医師向けセミナー(第33回)抄録

白金高輪矯正歯科院長 間所 睦
タイトル:インハウスアライナー ―内製化によるアライナー矯正の課題解決とその可能性―

 アライナー矯正治療は、事前にデジタル技術によるシミュレーションを行い、それを3Dプリンティング技術により再現した装置が製作され、口腔内にセットし反映させる治療である。 それを初めて目にした約20年前、毎月ワイヤーの調整を繰り返し、さまざまな生体反応に苦慮していた我々矯正医にとって、極めて画期的であり、新時代の幕開けを感じるものであった。しかしその後、シミュレーションに対して実際の生体への再現率は約50%ということが判明し、さまざまな工夫やテクニックが生み出されてはきているものの、いまだ全てを補償する科学的なコンセンサスは得られていない。そのためか、予測実現性という名のもと装置の特性に寄せた診断や移動計画が採用される症例が散見され、これまでの矯正学における歴史的なパラダイムが軽視されている傾向があることは危惧すべきことである。
 一方、インハウスアライナーは、従来のアライナーシステムに比べて、シート素材の選択や形状など、自由度が格段に向上し、1から3ヶ月毎の細かい調整が容易なため、ワイヤー矯正の様に個人の移動状況に合わせた治療シーケンスが可能となっている。さらに、近年開発された3Dモニタリングシステムは、細かな微修正が容易なインハウスアライナーとの親和性が高く、より確実性をもった矯正移動が可能となってきた。
また、出力した模型に加熱したシートを圧接して成型する従来のサーモフォームアライナーに対して、直接出力して製作されるダイレクトプリントアライナーは、応力分析に基づいた部位毎の厚みや形状が再現可能であり、硬さや耐久性などの性状、審美性を向上させる色調までも調整できるため、新しい可能性を秘めている。
しかし、これらの3Dプリンティング技術を用いた製作や臨床においては、アレルギー反応などの報告が頻発しており、安全性に関する認識は未だ低いと言わざるを得ない状況にある。
 本講演では、当院が行なっているインハウスアライナーの様々な取り組みや開発中の新素材などを紹介し、その可能性や安全性を含めた課題について議論したい。

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