朝日大学歯学部 歯科理工学教授 玉置 幸道
タイトル:デジタル化の現状と今後
1988年2月、演者は世界に名だたるデンタルショーの一つである米国・シカゴで開催されたミッドウィンターミー
ティングに出席した際に、フランスのDr. DuretがデモンストレーションでCAD/CAM(Computer Aided
Design/Computer Aided
Manufacturing)によりセラミックスのフルクラウン製作する講演を拝聴した。画像を通しての実演ではあったが、完成度の高さに大きな衝撃を受
けた。当時の手法は患者の口腔内をCCDカメラで直接撮影することにより情報収集を行い、モニター上で自動設計後に自動加工(CAD/CAM)製作する手
順であり、いまと大きな相違はない。ただ残念なことに、湿環境で暗所な口腔内の撮影は簡単ではなく、別に印象採得から模型製作の手順を踏んで加工される方
法も検討されるなど、以降、実用化までには多くの時間を要することになってしまった。
20世紀末よりコンピュータや電気・電子・情報工学を駆使したいわゆるデジタル技術はさまざまな分野で急速に普及し,歯科医療現場でも補綴処置、矯正治
療、審美歯科領域、レントゲン機器をはじめとする診断機器,患者コミュニケーションツールなど枚挙にいとまがないほどである。CAD/CAMの臨床応用に
ついては、溶融温度が高く酸化しやすいために鋳造加工が困難であったチタンが当初のターゲットになっていたと記憶している。しかし、近年ではアルミナ・ジ
ルコニアといった生体安全性の高いセラミックス材料が登用され、とりわけジルコニアは主たる加工方法がCAD/CAMであったことも、自動化の技術開発・
発展に追い風となったことは疑いのないところである。元来より臼歯部補綴修復には靭性が大きく長期耐久性に優れる金属材料が第一選択肢として重用されてい
たが、色調やアレルギー誘発などマイナスの部分もあり、さらには昨今の貴金属合金の高騰も相まって、高強度セラミックスによる単冠・ブリッジの適応や
CAD/CAM用レジン冠の保険導入が進められるなど、ここ数年で加速度的な変貌を遂げている。
本講演では歯科領域でのデジタル化の推移と今後の展望について紹介をしていきたい。