日本成人矯正歯科学会

第27回秋季学会セミナー 抄録

Maxillary Molar Distalization-その未来への可能性を探る

BENEfit システム講師
ドイツ公認矯正歯科専門医、ドイツ歯学博士、日本・ドイツ歯科医師
山口修二


日常臨床において、Ⅱ級不正咬合は最も頻繁にみられるケースの一つである。Ⅱ級不正咬合は、骨格的なディスクレパンシーによるものとオーバージェットや前歯の叢生を伴う歯・歯槽性のディスクレパンシーによるものがある。非抜歯でⅡ級不正咬合を治療する場合、おもに下顎後退による骨格的な問題などを含むケース以外では、上顎大臼歯の遠心移動が望まれることが多い。

これまで数十年にもおよび上顎大臼歯遠心移動を目的とするさまざまなコンセプト、バイオメカ二クスや装置が考えられてきた。従来使用されてきた装置の一つにヘッドギアが挙げられるが、患者の協力や審美的な問題、作用力の調整の困難等により臨床で一般的に受け入れられにくかった。その後、患者協力に依存しない多様な上顎内装置が開発されたが、そのほとんどの装置において小臼歯の近心移動や前歯の突出などを生じるアンカレッジロスという問題を含んでいた。また、ハーブスト装置のような顎間装置においては、下顎前歯の唇側傾斜を伴わない骨格性Ⅱ級不正咬合のケースに限られていた。

スケレタルアンカレッジという概念の出現により、患者コンプライアンスの必要性とアンカレッジロスを排除した上顎大臼歯の遠心移動の可能性が広がった。特に、矯正用アンカースクリューは外科的侵襲が少なく用途が広いため、次第に注目されるようになり、アンカースクリューを使用した上顎大臼歯の遠心移動のさまざまなメカ二クスやシステムが開発されている。

近年、アンカースクリューを応用した上顎大臼歯の遠心移動の有効性が確認されている一方、日常臨床では新たな課題も生じている。歴史的背景を踏まえ、症例を通してその有効性を示し、さらに現在の課題を整理し、より確実で効果的な上顎大臼歯の遠心移動の未来への可能性を探りたい。

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