テーマ:「矯正治療における大臼歯遠心移動の実際」
サブタイトル:上顎大臼歯遠心移動を行ったⅡ級症例の長期保定観察から学ぶこと
小川矯正歯科(広島県福山市)
院長 小川晴也
矯正歯科治療の一般的な目的は、審美的にも機能的にも良好で長期に安定し得る治療結果を得て、患者の末永い健康に寄与することである。歯を動かす手段としての数々の装置への工夫や進化が行われているとともに、矯正治療に関する情報もあふれている昨今、特に歯科矯正用アンカースクリュー(以下OASと略す)を使った矯正臨床は、従来の固定源の概念を大きく変化させたとともに治療目標の設定に大きな影響を与えた。一方で、たとえOASを使うことで治療目標の飛躍的な向上が実現できたとしても治療の対象は生体であり、治療後も安定すべきところに歯を動かすということが重要である。OASの臨床応用が始まってすでに15年以上経過した現在、種々のタイプのOASが広く臨床に応用され、その治療効果についての多くの臨床報告が行われながらOASのタイプにより適用できるフォースシステムが異なることや歯の移動様式の制限があることも明らかになってきたが、上顎大臼歯を遠心移動させた症例の長期予後についての報告はまだ少ない。
矯正治療後の長期安定を達成するためには,咬合状態,下顎位,臼歯群の整直状態,Interincisal angle(以下I.I.Aと略す),下顎犬歯間幅径,下顎前歯の位置,ポステリアディスクレパンシー,骨格の特徴などの留意すべき種々の矯正学的ルールの他,習癖に対する患者の理解と協力が必要であることが知られており,上顎大臼歯を遠心移動させた症例が長期安定するためにもそれは共通であると考えられる。そこで今回、当院でOASを用いて上顎大臼歯を遠心移動させて治療を行ったⅡ級症例について治療後長期経過資料を分析し考察を行った。すなわちOASを用いて上顎大臼歯を遠心移動(最小2.0mm,最大6.0mm,平均3.9mm)させて緊密なⅠ級の大臼歯関係で良好な咬合が得られたⅡ級症例を10症例(div.1:7症例、div.2:2症例、deepbite:1症例)抽出し、それらの治療後長期保定経過(最短7年,最長12年,平均10.1年)における軟組織、歯、骨格の変化を検証することにより、どのようなⅡ級症例が上顎大臼歯遠心移動を行う適応症であるのかについて得られた知見を報告する。